ロンドンのヒュースロー空港の入国審査はとても混雑していた。

登は今まで、韓国やグァムなど近場だけだが、海外一人旅の経験もあるので、今回の旅行も気楽に考えていた。

登の番が来た。

「滞在の目的は?」

まるで警察官みたいな、愛想もない怖そうな入国審査官だった。
それは、まるで、審査というよりは、尋問をうけているような厳しい口調に登は驚いた。

いろいろな質問が、かなり細かく、次から次へと浴びせられた。

英語が苦手な登は、初めてのイギリス英語を聞き取るのがやっとで、しどろもどろの返事しかできなかった。

登は、あまりにも厳しい入国審査に、もしかすると入国できないのかもと、青ざめた顔になっていたが、審査官はパスポートにスタンプを無造作に押すと、それを登に投げて返した。

「何なんだろう、ここは、ずいぶん失礼な感じだな」

初めてのイギリスは、いやな感じからはじまった。

ヒュースローは、複雑な作りになっていて、オックスフォード行きのバス乗り場を見つけるのにかなり時間がかかってしまった。

おまけに、バスは時間どおりには来ていないようで、バス停には長蛇の列ができている。

結局、1時間近く待たされ、お目当てのバスが到着した。


「ここ、隣あいてますか?」

「・・・・・・・・・・・・」

質問した女の子は、不機嫌そうな顔をして、思いっきり無視して顔を背けた。

他に座る席もないので、登は一応腰を下ろした。


そこに座っていいのか悪いのか、よく分からなかったが、女の子は窓側に顔を背けたまま何も言わないし、バスはすぐ発車したので、そのままおとなしく座っていることにした。

隣の女の子をちらっと、見ながら思った。

「イギリス人ってかなり変かな?」


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オックスフォードに到着したのは、予定よりもだいぶ遅い時間だった。

あたりには人影もまばらで、お店もほとんど閉まっている。

ホテルは着いてから探そうと、気楽に考えていた登だが、重い荷物を持った身では、暗い夜道を歩くこともできず、途方にくれていた。

バス停のそばには、立派そうなホテルが一軒だけあった。
今日はどうやらここに泊まるしか、ないらしい。

「すいません、今日シングルで空きはありますか?」

予約のない突然の客に、フロントの女の子の愛想は良くなかったが、
なんとか部屋にありつくことができた。


部屋はかなり狭く、ベッドに寝転ぶと、天井がとても妙な感じなのがわかった。

その天井と部屋の造りをよく観察してみると、たぶんここは、昔トイレだったのを、むりやりシングルルームに換えたことが分かった。

「何だ!この部屋、トイレじゃないか」

登が怒るのも無理はない。何しろこの部屋の料金は日本円で約2万円もしたのだから。

次の日の朝、登は嫌味のひとつでも言ってやろうかと考えていたが、
最初から見下したような嫌な感じのフロントに、ぜんぜん客扱いされてないと悟ると、わざわざ、これ以上嫌な目にあうこともないと、急いで逃げ出すことにした。


オックスフォードの街は、あちらこちらに大学のキャンパスが点在し、街中がクラシックな風情にあふれている。植物園や庭は、今が花盛りで、登が期待していた美しい風景が堪能できた。


またこの街を基点として、たとえば、バイブリーや、カッスルクームといったイギリスでも最も美しい村々が集まるコッツウォルドへと、伝統と自然を愛する人達が世界中からたくさん訪れていた。

登は市内の観光案内所で一泊5千円くらいのホテルを探してもらっていた。

「初日にホテル代2万円使ったから、節約しないと」

5千円のホテルは、市内から離れた、あまり高級ではないホテルだったが、清潔で、泊まるだけなら特に問題はなかった。


この時期のイングリッシュガーデンは、バラがそろそろ終わりのシーズンを迎えていたが、まだ、それなりに楽しめた。

花の色は、一日の温暖差があるほど、色濃くなるという法則があるらしく、朝晩は、気温の下がる北国ほど、色鮮やかな花色が楽しめるらしい。

登は毎日、いろいろな庭を散策して、本場ならではの素晴らしい花色を堪能することができた。



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「16,000円です。今なら空室がご用意できますよ」

「18,000円です。ちょうど夏のプロモーションしてますから、お得ですよ。」


登はロンドンへ戻り、めぼしいホテルへ電話をかけていた。

「高い!ロンドンが高いと聞いていたが、これほどとは驚きだ」

「さっきした食事も、ただのサンドイッチだけなのに、2,000円近くもするし、ポンドって一体どうなってんだろう」


ロンドンには、何泊かする予定だったが、あまりの物価の高さに驚いた登は、ロンドンを抜け出すことにした。


「さて、どこへ行こうか?」

ビクトリア駅の発車掲示板をぼんやり見ていると、ドーバーの名前が目に留まった。
フランスへ渡るフェリーで有名な街だ。

「自分が名前を知っているくらいだから、大きな街なんだろう」  
 
そう思うと、急いで、ドーバー行きの汽車に飛び乗っていた。

イギリスの汽車の旅はとても楽しい。ロンドンを出ると、小さい街をめぐり、田園風景が続く。
ただ、汽車のアナウンスを聞き取ることができず、ドーバーへいつ着くのかは、全く分からなかった。


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ドーバーへ着いたとき、日はとっぷりと暮れていた。

街中はどの店もシャツターが閉められ。道行く人もいない。

観光案内所がこの辺りにあるはずだが、何度往復しても見当たらなかった。

しばらくすると海岸線に出た。
海が目の前にひろがっている。ドーバー海峡だ。

海の向こうは、フランスだ。
すぐ横のフェリーターミナルには、フランス行きの船が横たわっていた。

「どうしょう。ホテルもないし」
「今日はどこへ泊まればいいんだ?」


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